第1章 今、なぜ家系図を作るのか?
明治時代の戸籍が処分されていることをご存知ですか?正確には処分されているのは「除籍簿」と呼ばれるものです。
ひとつの戸籍に記載されている人々も、死亡、結婚等により一人、また一人と戸籍を抜けて(除籍)いきます。やがて、一つの戸籍から全員がいなくなる時が必ずきます。そうした戸籍の抜け殻が「除籍簿」と呼ばれています。
この除籍簿は役場で80年間(*1)保存されることになっています。逆にいえば、80年を経過する現在、明治時代の除籍簿がどんどん処分されているということです。
こうした自分のツールの記録が消されていくという事は寂しい気分にさせられます。いや、寂しいというより何か不安定な気持ちにさせられます・・・今ならまだ戸籍で幕末から明治のご先祖まで辿ることができます。
そんな背景もありまして、当事務所では、今のうちに貴重な戸籍を取得して家系図を作成しておくことをお奨めしています。
この冊子は、ご自身で家系図をお作りされる方の一助になればという思いで製作したものです。
(*1)2010 年 6 月 1 日から保存期間が 150 年に変更されました。しかし、やがて古い除籍は廃棄されていくことに変わりありませんので、早めの家系図作成をお奨めしています。
第2章 家系図の記載方法
一口に家系図といってもその記載方法は様々なタイプがあります。というよりも家系図の作り方にはルールがありません。好きなように作っていただいて結構なのです。しかし、実際にはおおまかに次の二つのどちらかで作成される場合が多いようです。
ひとつは「縦系図」。
これは、判明している初代と自分までを直径で結んでいく系図です。
必要に応じてそれぞれの代の配偶者や兄弟も記載しますが、初代と自分を繋ぐ線を重要視していますので、各配偶者の父母や兄弟の子などの記載はあまりされません。
結果的に細長い家系図となります。
この記載方法を取る目的は初代と自分の繋がりを明確にすることです。ですから、初代が著名な人物などの時には非常にいいかもしれません。
例えば、
江戸時代の有名な武将を先祖に持つ場合は、そこからどんどん下に降りていき最後に自分がいる。~誇らしい気分になれます~
もう一つは「ファミリーツリー(家族樹)型」。
これは、自分を起点にして父母を記載し、さらには父方・母方それぞれの祖父・祖母を記載していく。ここまでで祖父・祖母が4名出てきます。もう一代上がると8名、もう一代上がると16名・・・・と、代を上がるごとに倍に増えていきものすごい数の人物が記載されます。
さらに必要に応じて自分の兄弟や父母の兄弟なども書き入れます。そうです!文字通りツリーのような形になっていくのです。
この形式で作ると、自分が一体どんな人々の存在のもとにこの世に生まれてきたのかが明確になります。
単純に有名な誰それの子孫ということではなく、何となく生命の不思議さまで感じられます。おそらく、今まで見たことも聞いたこともないご先祖様も数多くあらわれるでしょう。
そうしたものを製作しておくと、お子様にとってのご先祖様がすべて明らかになり、命の不思議さ、重さを感じてもらえるものになるからです。これは一度、自分のご先祖様を全て並べてみて初めて分かる不思議な感覚です。
また、こうして調査をした結果をどんな媒体に残すのかも様々です。
巻物にして先祖代々伝えていくのが一般的ですが、昨今ではパソコンなどを利用して電子上で残すという方法も考えられます。
当事務所では、書家に直筆で記載してもらい、それをプロの表具師に巻物仕立てで表装してもらうということも行っています。(調査料金とは別に巻物料金が必要です)
「書」で記録されることにより、歴史の中に埋もれてしまっていたご先祖様への供養にもなるような気がしますし、きちんとした表装をすることにより長期の時の経過に耐えられ、かつ、「ありがたみ」が出て紛失の心配も無く代々に伝えられると思うからです。
でも、これは各人で工夫されるとよいと思います。
家系図の他に先祖や自分も含めた各人の業績、それに家系の由来なども含めた家系譜を残しておくのも一興です。(家紋を表紙に付けたりするとなお、雰囲気が出て良いですね)
第3章 戸籍取得を急ごう!
冒頭でもお話いたしました通り、今こうしている間にも明治時代の戸籍がどんどん処分されてしまっているのです。私は依頼を受けて戸籍取得をすることが多いのですが、わずか1年の差で明治初期の戸籍が発行してもらえない。ということもしばしばあります。
明治初期の戸籍には大抵、幕末のご先祖様も記載されていますので、明治初期の家の本籍地を知る貴重な手がかりとなります。
今や江戸時代の先祖の菩提寺がどこかも分らないという人にとっては、それを知る上でも貴重な資料なのです。江戸時代以前の調査はゆっくり行うとしても、明治までの戸籍取得は急いでおく!というのが基本です。
では、自分の先祖を記載した戸籍をすべて取得するにはどうすれば良いのでしょうか?
慣れていない人にとっては、大変ややこしい作業です。そもそも、身近なものでありながら実は戸籍の事をよく知らないという方も多いと思います。
そこで、『戸籍とは何なのか』『どんな種類があるのか』を知らなければいけません。これが分かっていないと大事な戸籍を取り漏らしたりしてしまいます。まずは、次章で戸籍の種類と基礎知識を頭に入れておきたいと思います。
第4章 戸籍用語辞典 ~必須知識~
【戸籍】
一口に戸籍と言っても現代と明治時代ではその性質が全く異なるので注意が必要です。現在は「一組の夫婦とその子供」を単位として戸籍が編成されています。しかし、昔は『家』を単位として戸籍が編製されていました。
戸籍には筆頭者を中心に各人と筆頭者の関係(妻・子供など)が明記されています。また、各人が以前どこの戸籍に属していたかが記載されています。これにより、どんな人の分でもその家系や先祖を延々と辿ることが出来るのです。
【除籍】
一つの戸籍に記載されている人々も、やがて「死亡」や「婚姻」によって、その戸籍から消除されていきます。そうなると、どんな戸籍でもいつかは誰もいなくなる抜け殻となる日が来るのです。
そうした戸籍は除籍と呼ばれ、除籍簿に綴られていくのです。除籍簿に綴られた除籍の保存期間は戸籍法により80年(*1)と定められています。
今、ひっそりと除籍簿に綴られているご先祖様の除籍も処分される時をじっと待っている訳です。
(*1)2010 年 6 月 1 日から保存期間が 150 年に変更されました。しかし、やがて古い除籍は廃棄されていくことに変わりありませんので、早めの家系図作成をお奨めしています。
【改製原戸籍】
戸籍の様式は法令で変更されることがあります。そうした戸籍があらたに書き換えられることを「戸籍の改製」と呼び、従前の不要となった様式の方を改製原戸籍と言います。
不要になったとはいえ、様々な身分関係を証明する時に必要になりますので、当然これもしばらくの間は保存されます。
しかし、この改製原戸籍が結構、曲者です。内容は同じまま書き換えられるのだから現在の戸籍だけであれば事足りると思ったら大間違いです。書きかえられる時点で、すでに婚姻で消除されている人は新しい戸籍の方には全く反映されませんので、戸籍の方に載っていない人が改製原戸籍の方には載っていたりするのです。
ところで、通常の戸籍のことを役所の人は「現戸籍(げんこせき)」と呼びます。
改製原戸籍(かいせいげんこせき)も原戸籍の部分だけ取って呼ぶと、まぎらわしくなるので役所の人は、改製原戸籍の事は「はらこせき」と呼ぶようにしています。これは、覚えておいたほうが良いと思われます。電話などで話していると混同して間違いが起きる可能性大ですので・・・。
【三代戸籍禁止の原則】
現代の戸籍は、「一組の夫婦とその子供」が単位。~つまり、親子二代までしか一緒の戸籍には入れません~
そのため子供が結構したり、子供が生まれたりした場合は親の戸籍を抜けて新たな戸籍を編製することになるのです。
【家督相続】
現代と違い、旧民法の頃は戸籍の単位は「家」でした。
『家』~つまりは、家長を筆頭者(戸主)として、その子供、さらには子供の配偶者まで一緒の戸籍に入るのです。
戸主には、家を統括するための特別な権利義務が認められており、そうした特別な権利は「戸主権」と呼ばれていました。
家督相続というのは、この戸主権の継承のことを指します。古い戸籍の中には、この言葉が頻繁に出てきますので、その意味を理解しておくことが大切です。
家督相続が発生する原因としては、「戸主の死亡」「女戸主の入夫婚姻」「戸主の隠居」などが考えられます。余談ですが、「隠居」という制度も昔はきちんと民法に定められていたのです。ですから、隠居をする際には旧法にのっとってきちんと役所に届出を出していたのです。
【廃家】
これも旧民法の制度です。戸主が他家に養子縁組などで入る場合には、従前の家を廃家とします。その際に廃家する戸主の戸籍に入っていた家族は、その戸主について入家先の戸籍に入ることになります。
【分家】
やはり旧民法上の制度です。戸主以外の家族が、その家から分離して新たに家(戸籍)を創ることを分家と呼びました。しかし、分家には戸主の同意が必要とされていて勝手には出来ないものでした。よく、「本家」「分家」などという呼び方をしますが、昔はこれも法律上の制度だったのです。
【養子】
昔の戸籍を取ると養子が大変多いことに驚かされます。
女の子ばかりが生まれる家では、男の子を養子にとり、適齢期になると長女と婚姻させ家を継がせるというのが定石でした。
家系図を作る際には、このことも理解していないとおかしな家系図になってしまうので注意が必要です。これなどは、まだ簡単なケースで、もっと複雑に養子縁組と婚姻が重なり合って家系図に表わすのに一苦労というケースもあります。
【妾】
いわゆる「愛人」です。なんとこの「妾」が法律上、認められていた時代があった(明治3年~明治15年)というのですから現代人にとっては驚きです。何しろ法律上公認ですから戸籍にも妻と同様に堂々と記載されていたのです。
さて、これが戸籍の基礎知識です。次章では、具体的な戸籍取得方法をみていきましょう。
第5章 戸籍取得のノウハウ
では、実際に必要な戸籍をどのように請求していくのかを見ていきましょう。
戸籍は各本籍地の市町村役場で管理しています。ですから、例えば所沢市内にある戸籍を取得したいと思えば所沢市役所に 請求し発行してもらうことになります。
まずは、自分自身の現在の戸籍を取ってみることから始まります。自分が未婚で両親の戸籍に入っているという方もいれば、自分が筆頭者で子供とともに戸籍に入っているケースもあるでしょう。自分が筆頭者(あるいは筆頭者の妻)であれば、次に自分の両親の戸籍を取る必要があります。両親の戸籍を取るためには両親の戸籍の所在地とその戸籍の筆頭者(大体は父親)を知る必要があります。
戸籍というのは「本籍地」「筆頭者」という二つのキーワードで管理されています。つまり、戸籍を請求するためには、常にこの二つの項目を明確にして各役所へ請求する必要があります。
では、自分が筆頭者の場合にどうすれば両親の戸籍の「本籍地」「筆頭者」が判明するのでしょうか。戸籍の仕組みの素晴らしいところは、必ず戸籍に記載されている人が過去にどの戸籍に所属していたかが辿れるようになっているところです。
『○○市△△町1-1-1 山田太郎小関より入籍』
などという風に従前属していた戸籍の「本籍地」「筆頭者」が記載されているのです。戸籍に慣れないと、他の記載と見間違ったりしてしまいがちですが、何度も戸籍を読み込めが必ず判ります。
という要領で自分から始めて、両親の戸籍を取り、それを基に父母それぞれの従前の戸籍を各役場へ請求して取得し・・・ということを延々と繰り返します。代を上がるごとに請求する戸籍の数、請求する役場の数が倍々になっていきます。
しかし、これで安心してはいけません。前章で説明した通り、戸籍にもいろいろな種類があります。現在の戸籍や除籍を取っただけでは不完全ですので、必ず改正製原戸籍がないかを確認していきます。
また、一人のひとの戸籍でも婚姻や引越しなどで転籍を繰り返している場合は、複数の役所を一つ一つ辿っていかなければなりません。
この時に戸籍についての基礎知識がないと役所の係りの人とのコミュニケーションがうまく取れず、大事な戸籍が漏れてしまったりするので要注意です。存在していた筈のご先祖様が忘れ去られたまま家系図が作られたとしたら、こんなに悲しいことはありません。
さて、戸籍というのは誰の戸籍でも自由気ままに取得できるというものではありません。
しかし、自分や直系尊属(父母・祖父母・曽祖父母・高祖父母など。叔父・叔母さんは直系尊属ではないが、祖父母の戸籍・改製原戸籍・除籍を漏らさずに取得することで確認することができる)の戸籍については、自由に取得する権利があるので問題ありません。
ただし、現実問題としては、いきなりどこかの役所で高祖父母の戸籍を取ろうとすると簡単ではありません。取得する権利があるとしても、その権利を証明することが必要となるからです。
もちろん、自分の現在の戸籍がある市町村内に先祖すべての戸籍が存在しているなら、自分と先祖の関係は役所内で確認できるので証明の必要はありませんが、実際は代を追うごとに違う本籍地になっていて日本全国色々な役所に散らばっていることが多いものです。
では、どうやって自分と先祖が直系で結ばれているかを証明するかというと、そこまで取得した戸籍のコピーを全部提出することによって行います。これは面倒な作業ですが、戸籍とうい秘密性の高いものを請求するのですからやむを得ません。
面倒なのはこれだけではありません。戸籍を辿っていくと必ず出くわす問題があります。それは、現在では消滅している市町村名の問題です。
明治から現在にかけて、多くの市町村が消滅・合併を繰り返しています。ですから、せっかく従前の戸籍所在地を突き止めて、よし!その市町村役場へ戸籍を請求だ~!!と思っても、そんな名前の市町村役場は日本のどこにも存在していなかったりします。
そこで必要となるのが、旧市町村名が現在のどこの市町村役場に該当するのかを確認できる本です。かなりマニアックな本なので大きい書店に行かないと入手できないかもしれませんが、1万円程度で結構な種類が出ています。これが一冊あると便利です。
こうした書籍を頼りに、旧市町村が現在のどこの市町村に該当するかを調べて、そこの役所に戸籍を請求すれば発行してくれます。こうして漏らさず全国から先祖のすべての戸籍を取得すれば、後はそれを解析して、綺麗なファミリーツリー型の家系図を作ることが出来ます。
家系図は人名だけを入れて、別途、家系譜を作り、各人の生年月日・生誕地・命日・没地など戸籍から得られる情報を記載しておくと立派なものになります。しかし、この記載には間違いのないように特に注意を払ってください。健在の方のところに間違って「命日」を記載したり、人名を間違ったり、生年月日を間違ったり・・・そういうことがあると、その家系譜を見た当人や関係者が非常に心を痛めますので。
私が依頼を受けて家系図の他に家系譜も作成する時には、このチェックの部分にもっとも神経と労力と時間を費やします。家系図や家系譜を作成すると必ず製作者だけでなく親戚一同が興味を持って見ることになりますので、くれぐれも気をつけてください。
第6章 江戸時代の家系調査方法
前章までで戸籍が存在する時代の家系図作成は完了です。ここまでで大体、幕末~明治初期の先祖までは出てきます。ここまでを戸籍が処分されるまでにやておけば一安心です。そこから先の江戸時代の先祖探しは腰を落ち着けてじっくり進めれば良いでしょう。
さて、では戸籍以前の調査はどのようにして行うのかを簡単にご説明いたしましょう。
何と言っても江戸時代は『お寺』です。江戸時代は幕府の宗教弾圧の関係などもあり、武士の家でも庶民の家でも必ずどこかのお寺に属することを義務付けられていたために結果としてお寺が地域の家を管理監督するような形になりました。
いわゆる檀家制度です。
そして、このお寺が檀家の人々の生死などを当然に記録する必要に迫られて「過去帳」「宗門人別帳」といった現在の戸籍のようなものを作りはじめたのです。檀家にとっては、こうした自分のところの管理をしてくれるお寺を『菩提寺』と呼びます。
ですから、この自分の先祖の菩提寺さえ突き止められれば、そこにかなりの記録が残っている筈ですから、かなり前まで遡ることが可能になるのです。
親類縁者の誰かが江戸時代以前の自家の菩提寺を知っていればすぐにでも調査が出来ます。(その場合でも戸籍を全部取ってご先祖様の名前も全て明らかにしておいた方が調べやすいのは言うまでもありません)
ですから、まず辿りたい祖先の菩提寺について知っている人がいなかいどうかを確認する。というのが第一歩です。どうしても、そうした情報がない場合に頼りになるのが古い戸籍です。
辿れる最古の戸籍から先祖の本籍地が知れます。もし、どうしても菩提寺が不明な場合は、その本籍地のそばのお寺に問い合わせてみるのがいいでしょう。普通に考えれば本籍地のそばのお寺が菩提寺である可能性が高いと思われます。
もちろん、こうした調査を行う際には、そのお寺に出向き先祖の供養をしてから過去帳の閲覧などをお願いするのが筋ですが。どうしても遠方で時間が取れない場合などは丁寧な問い合わせの手紙で主旨を伝え、可能であれば過去帳のコピーなどをして頂けないかを聞いてみるのもいいかもしれません。
もちろん、そうした場合でもお布施などをするのが礼儀でしょう。
しかし、菩提寺が判明したならやはり一度足を運ぶ方が絶対にいいでしょう。お墓があれば、そこにも多くの情報が眠っている筈ですし、何より苦労して辿り着いたご先祖様です。一度くらい手を合わせておいてもバチはあたりません。
ここで長々と戸籍以前のお話をしても時期尚早の感があります。まずは、戸籍調査です。それでは、あなたの「自分探し」の旅の安全を祈念しつつ、またの再会を楽しみにしております。丸山 学(行政書士)